Andrew Michael Spence
スペンスの業績の中で最も有名なのはシグナリングに関する理論、特に労働市場に関する理論である。
企業は採用時に応募者の能力を正確に把握できないため,能力を代替するシグナルとして,また応募者を「ソーティング」する判断材料として,学歴を使う。
企業が応募者の真の能力を知ろうとすれば,凄まじい時間と労力を費やすことになる。学歴は応募者の能力を企業に伝えうる「安いシグナル」になるわけだ。
シグナリング理論では,能力の高い人は効率よく勉強し,低コストで高学歴を取得できると仮定する。一方で能力の低い人は効率が悪く,勉強に苦労することから,学歴を取得するには相対的にコストが高くなると仮定する。このため企業から見れば,人材は学歴を通じて能力別に淘汰されるとみなす。
「効率の良い勉強ができる」ということが事業場のKPIにするべきかどうかは別の議論だよね
シグナリング過程の大きな魅力は,フィードバックループがあることだろう。
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図に示すように,まず企業は①応募者の学歴を能力のシグナルとみなし,
②この学歴に見合った賃金をオファーする。
応募者は②で学歴別にオファーされた賃金を見受けて,
③自分の能力に相応しい教育水準を選択する。
採用後,企業は労働者の能力を直接観察することができるため,①では不確定であった学歴と能力のリンクが,時間とともに明らかにされる。学歴が印象に過ぎなかった部分が,新たな採用データの追加によって確定されるという重要なプロセスが④で働くわけだ。
そして学歴に関する新たな知識とデータが企業内に蓄積されて①にフィードバックされ,次期の採用に有効に活用される。
採用過程が一巡して教育投資対リターンの知識がある程度市場に知れわたると,次期の応募者は⑤学歴取得の費用を評価し,自分が教育にどの程度投資するかを判断する。